江戸時代の時間の表し方を解説!「明け六つ」「巳の刻」「三更」は現代の何時?

時代小説を読んでいると、「明け六つに出立した」「巳の刻に参上する」「草木も眠る丑三つ時」「三更に事件が起きた」など、現代ではあまり使わない時刻の表現に出会います。
これらは、いったい現代の何時に当たるのでしょうか。
実は、江戸時代の時刻は、現在のように一日を24時間に均等に分けていたわけではありません。季節によって時刻の長さが変わる仕組みが使われていたため、単純に「明け六つ=午前6時」と覚えると、正確ではない場合があります。
この記事では、江戸時代の時刻制度の基本から、十二支による時刻、明け六つ・暮れ六つ、三更・丑三つ時などの表現まで、現代の24時間表示と比較しながら解説します。
1.江戸時代の時間は「不定時法」が基本
江戸時代の日本で広く使われていた時刻制度が、不定時法(ふていじほう)です。
現代の時刻制度では、一日を24等分し、1時間を常に60分としています。これに対して不定時法では、日の出から日没までの昼と、日没から翌日の日の出までの夜を、それぞれ6等分しました。
- 昼:明け六つから暮れ六つまで
- 夜:暮れ六つから翌日の明け六つまで
昼と夜のそれぞれの区分を「一刻(いっとき)」と呼びました。昼と夜の長さは季節によって異なるため、昼の一刻と夜の一刻は必ずしも同じ長さではありません。
| 季節 | 昼の一刻 | 夜の一刻 |
|---|---|---|
| 夏至の頃 | 約2時間40分 | 約1時間20分 |
| 春分・秋分の頃 | 約2時間 | 約2時間 |
| 冬至の頃 | 約1時間50分 | 約2時間10分 |
※数値は概算です。実際の長さは地域や時刻の基準などによって変わります。
このように、江戸時代の時刻を現代の時刻に換算する際には、季節を考慮する必要があります。
2.「明け六つ」「暮れ六つ」とは何時か?
明け六つ(あけむつ)
夜が明ける頃を表します。江戸時代の時刻制度では、昼の始まりに当たる時刻です。
暮れ六つ(くれむつ)
日が暮れる頃を表します。昼が終わり、夜に移る時刻です。
ただし、これらは現代の午前6時・午後6時と厳密に一致するわけではありません。季節によって、明け六つは夏には早く、冬には遅くなります。暮れ六つも同様に、夏は遅く、冬は早くなります。
| 表現 | 意味 | 現代時刻の目安 |
|---|---|---|
| 明け六つ | 夜明け頃 | 午前4~7時頃 |
| 暮れ六つ | 日暮れ頃 | 午後5~8時頃 |
※季節・地域などによって変わるため、幅を持たせた目安です。
時代小説に「明け六つに江戸を発った」とあれば、夜明け頃に出発したと理解すればよいでしょう。
3.十二支で表す時刻と現代の24時間表示
江戸時代には、十二支を使って時刻を表す方法もありました。
子(ね)、丑(うし)、寅(とら)、卯(う)、辰(たつ)、巳(み)、午(うま)、未(ひつじ)、申(さる)、酉(とり)、戌(いぬ)、亥(い)という十二支を、一日の時刻に割り当てます。
| 十二支による時刻 | 現代の時刻の目安 |
|---|---|
| 子の刻(ねのこく) | 午後11時~午前1時頃 |
| 丑の刻(うしのこく) | 午前1~3時頃 |
| 寅の刻(とらのこく) | 午前3~5時頃 |
| 卯の刻(うのこく) | 午前5~7時頃 |
| 辰の刻(たつのこく) | 午前7~9時頃 |
| 巳の刻(みのこく) | 午前9~11時頃 |
| 午の刻(うまのこく) | 午前11時~午後1時頃 |
| 未の刻(ひつじのこく) | 午後1~3時頃 |
| 申の刻(さるのこく) | 午後3~5時頃 |
| 酉の刻(とりのこく) | 午後5~7時頃 |
| 戌の刻(いぬのこく) | 午後7~9時頃 |
| 亥の刻(いのこく) | 午後9~11時頃 |
※現代の時刻に置き換えた概算です。不定時法では季節によって対応が変わります。
「巳の刻」は何時?
巳の刻は、おおむね午前9時から午前11時頃に当たります。現代の感覚では午前10時前後をイメージするとわかりやすいでしょう。
例えば、小説に「巳の刻に奉行所へ出頭せよ」と書かれていた場合、午前中の中ほどに呼び出されたと考えられます。
なお、十二支による時刻の区分と、「九つ」「八つ」などの時刻表現は、同じ時刻制度に関係する別の呼び方です。
4.「九つ」「八つ」「七つ」はどう読む?
江戸時代には、時刻を数字で表す方法もありました。「九つ」「八つ」「七つ」「六つ」「五つ」「四つ」と数えますが、これは現代の午前9時、午前8時という意味ではありません。
春分・秋分の頃を想定した、おおよその対応は次のとおりです。
| 時刻の呼び方 | 十二支 | 現代時刻の目安 |
|---|---|---|
| 明け六つ | 卯の刻 | 夜明け頃 |
| 朝五つ | 辰の刻 | 午前8時頃 |
| 朝四つ | 巳の刻 | 午前10時頃 |
| 昼九つ | 午の刻 | 正午頃 |
| 昼八つ | 未の刻 | 午後2時頃 |
| 夕七つ | 申の刻 | 午後4時頃 |
| 暮れ六つ | 酉の刻 | 日暮れ頃 |
| 宵五つ | 戌の刻 | 午後8時頃 |
| 夜四つ | 亥の刻 | 午後10時頃 |
| 夜九つ | 子の刻 | 午前0時頃 |
| 夜八つ | 丑の刻 | 午前2時頃 |
| 暁七つ | 寅の刻 | 午前4時頃 |
※時刻の呼び方や対応には、時代・地域・資料による違いがあります。
なぜ「四つ」の次が「九つ」になるのか?
時刻を知らせる鐘や太鼓の数は、九つから始まり、八つ、七つ、六つ、五つ、四つと減っていきます。四つまで進むと、次は再び九つに戻ります。
昼と夜でそれぞれ同じ数え方を繰り返すため、「昼九つ」と「夜九つ」は別の時刻になります。
- 昼九つ:正午頃
- 夜九つ:午前0時頃
また、「おやつ」という言葉も、午後2時頃に当たる「八つ」に由来するとされています。
5.「三更」「五更」とは何時?
「三更(さんこう)」や「五更(ごこう)」は、夜の時間を表す言葉です。
これは昼夜をそれぞれ6等分する不定時法とは別に、一夜を五つに分ける「五更」という区分に由来します。漢文調の文章や時代小説などに登場する表現です。
| 表現 | 意味 | 現代時刻の目安 |
|---|---|---|
| 初更(しょこう) | 夜の第一の区分 | 午後7~9時頃 |
| 二更(にこう) | 夜の第二の区分 | 午後9~11時頃 |
| 三更(さんこう) | 夜の第三の区分 | 午後11時~午前1時頃 |
| 四更(しこう) | 夜の第四の区分 | 午前1~3時頃 |
| 五更(ごこう) | 夜の第五の区分 | 午前3~5時頃 |
※一夜をおおむね午後7時頃から翌朝5時頃までとする換算例です。季節や用いられた方式によって差があります。
三更は「真夜中」頃
三更は、現代の時刻では午後11時から午前1時頃に当たります。真夜中の頃を指す表現として理解するとよいでしょう。
時代小説で「三更に密会した」とあれば、夜が深まり、人々が寝静まった頃の密会をイメージできます。
五更は夜明け前
五更は、一夜を五つに分けた最後の区分です。現代の午前3~5時頃に当たり、夜明けが近づく時間帯を指します。
6.「丑三つ時」は午前2時頃?
怪談や時代小説で有名な「丑三つ時(うしみつどき)」も、昔の時刻表現です。
丑の刻は、現代の時刻では午前1時から午前3時頃に当たります。この区分をさらに四つに分けたとき、三番目に当たる時間帯が丑三つ時です。
| 表現 | 現代時刻の目安 |
|---|---|
| 丑一つ時 | 午前1時頃から約30分 |
| 丑二つ時 | 午前1時30分頃から約30分 |
| 丑三つ時 | 午前2時頃から約30分 |
| 丑四つ時 | 午前2時30分頃から約30分 |
※現代の時刻に置き換えた概算です。江戸時代の不定時法では季節によって対応が変わります。
したがって、「草木も眠る丑三つ時」は、現代の感覚では午前2時頃の真夜中をイメージするとよいでしょう。ただし、午前2時ちょうどと厳密に一致するわけではありません。
7.時代小説を読むための時刻早見表
時代小説で出会いやすい表現を中心に整理します。
| 時代小説の表現 | 現代の時刻・意味 |
|---|---|
| 明け六つ | 夜明け頃 |
| 暮れ六つ | 日暮れ頃 |
| 辰の刻 | 午前8時頃 |
| 巳の刻 | 午前10時頃 |
| 午の刻 | 正午頃 |
| 未の刻 | 午後2時頃 |
| 申の刻 | 午後4時頃 |
| 戌の刻 | 午後8時頃 |
| 亥の刻 | 午後10時頃 |
| 子の刻 | 午前0時頃 |
| 丑の刻 | 午前2時頃 |
| 丑三つ時 | 午前2時頃の約30分間 |
| 三更 | 午後11時~午前1時頃 |
| 五更 | 午前3~5時頃 |
※十二支の時刻は不定時法を前提とする概算です。三更・五更は夜を五つに分ける別の区分であり、同じ制度として混同しないようにしましょう。
8.江戸時代の人々は、どうやって時刻を知ったのか?
現代のように誰もが時計を持っていたわけではない江戸時代、人々はどのように時刻を知ったのでしょうか。
江戸の町では、寺院などに設置された「時の鐘」が時刻を知らせる役割を果たしました。鐘の音を聞くことで、人々はおおよその時刻を把握できたのです。
また、太陽の位置や明るさなど、自然の変化も時刻を知る重要な手がかりでした。
昼夜の長さが季節によって変わる不定時法は、現代の時計の感覚からすると不便に見えます。しかし、日の出とともに活動を始め、日暮れとともに仕事を終える生活には、自然の明暗に合わせた合理性があったと考えられます。
なお、江戸時代の時刻制度がすべて一様だったわけではありません。暦や天文計算、和時計などの場面では異なる時刻の扱いもあり、史料を厳密に読む際には注意が必要です。
まとめ:時刻表現を知ると、時代小説の情景がより鮮明になる
江戸時代の時刻表現は、現代の時計の数字に置き換えるだけでは理解しきれません。
- 明け六つ・暮れ六つは、夜明け・日暮れを基準とする時刻表現。
- 巳の刻・午の刻・丑の刻などは、十二支によって時刻を表したもの。
- 三更・五更は、一夜を五つに分ける区分に由来する表現。
また、江戸時代の一般的な時刻制度である不定時法では、季節によって一刻の長さが変わります。そのため、現代の時刻への換算はあくまでも目安です。
「明け六つに旅立つ」「巳の刻に奉行所へ呼び出される」「三更に忍び込む」といった表現を見かけたら、現代の時計だけでなく、当時の人々が感じていた自然の時間にも思いを巡らせてみてください。時刻の意味を知ることで、物語の情景や登場人物の行動が、より鮮明に感じられるはずです。