序章:沈黙する世界への疑問
世界は「人権」を掲げてきた。第二次世界大戦の悲劇を経て、国連は「二度と同じ過ちを繰り返さない」と誓ったはずだった。ところがいま、21世紀の現実として、中国共産党は新疆ウイグル自治区で国家ぐるみの民族迫害を展開している。数十万、あるいは百万単位のウイグル人が強制収容所に閉じ込められ、拷問され、信仰と文化を奪われ、女性は強制的に不妊手術を受け、子どもは家族から引き離されている。
そして世界は沈黙している。経済的利益のために目をつぶる国々、投資と援助に依存して中国を擁護する国々。国際社会に正義はあるのか――その問いを突き付けざるを得ない。
第一章:収容所システム ― 「教育」の名を借りた監獄
2017年以降、新疆全域に建設された「職業技能教育訓練センター」。中国政府は「過激思想を矯正する施設」と説明するが、実態は強制収容所にほかならない。
アムネスティ・インターナショナルやヒューマン・ライツ・ウォッチの調査では、収容者は理由もなく拘束され、日常的に殴打、監禁、拷問を受けたと証言している。国連人権高等弁務官事務所(OHCHR)の2022年報告書も「恣意的拘束が広範かつ体系的に行われている」と明言し、国際法上「人道に対する罪」に相当する可能性を指摘した。
ある生還者は語る。「私たちは番号で呼ばれ、24時間カメラで監視され、イスラムの祈りを捧げることすら許されなかった。隣室からは常に悲鳴が響いていた」。
その現実は、ナチスの強制収容所を想起させる。
第二章:監視国家 ― 新疆が実験場となった全体主義
新疆は世界で最も監視が徹底された地域の一つである。街頭には無数の監視カメラが設置され、顔認証技術とAIが常時市民を追跡する。スマートフォンには監視アプリが強制的にインストールされ、通話やメッセージ、画像までもチェックされる。
ニューヨーク・タイムズが入手した中国政府の内部文書「新疆文書」によれば、当局は「少しでも宗教的行動を示した者は拘束せよ」との指示を出していた。髭を伸ばす、コーランを所持する、ラマダンを守る――それだけで逮捕・収容の対象となる。
新疆は単なる自治区ではなく、中国全土に広げる「デジタル監視社会」の実験場と化している。
第三章:強制労働とグローバル経済
収容所に入れられた人々の多くは「労働移送」プログラムを通じて工場に送り込まれる。国際的に名の知れた衣料品ブランドや太陽光パネル産業が、この強制労働に依存しているとの指摘は後を絶たない。
特に深刻なのが、太陽光パネル製造に不可欠なポリシリコンである。2022年時点で世界のポリシリコンの35%が新疆で生産されている。英国シェフィールド・ハラム大学の調査「In Broad Daylight」によれば、新疆の大手メーカー4社すべてが強制労働に関与している可能性が高い。
米国は2021年に「ウイグル強制労働防止法(UFLPA)」を成立させ、新疆との関わりが疑われる製品を原則輸入禁止とした。しかし欧州やアジア諸国は対応が鈍く、いまも世界市場に「ウイグル強制労働製品」が流通している。これは国際社会全体の共犯である。
第四章:文化と宗教の抹殺 ― 「文化的ジェノサイド」
中国共産党は、ウイグル文化を「危険思想」と見なし徹底的に破壊してきた。
数千のモスクが取り壊されるか、使用不能にされた。
ウイグル語教育は廃止され、子どもたちは寄宿学校で中国語教育と共産党思想を強制されている。
伝統的な歌や踊り、詩は「分離主義的」として禁止された。
ユネスコの文化遺産に登録されるような歴史的建造物までが破壊されており、これは単なる宗教弾圧を超えた「文化的ジェノサイド」である。民族の記憶と誇りそのものを消し去ろうとするこの政策は、歴史における最悪の同化政策と同列に並ぶ。
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第五章:強制不妊と人口抑制 ― 「未来を断つ犯罪」
もっとも衝撃的な事実は、ウイグル女性への強制不妊政策である。
独立研究者アドリアン・ゼンツの分析によれば、2015~2018年の間に新疆南部のカシュガル・ホータン両地区の出生率は84%減少した。2019年には南部4県で生殖年齢女性の80%を対象にIUD挿入や不妊手術を強制する計画が公式文書で確認されている。
国連OHCHRの報告もこれを裏付けており、「強制的な不妊施術と出生抑制は民族的差別に基づく可能性が高い」と指摘した。これは国際刑事法におけるジェノサイド条約の定義に明確に合致する。
人を殺すのではなく、子を産ませないことで民族を根絶やしにする――これこそが計画的な大量虐殺である。
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第六章:国際社会の沈黙と偽善
国際社会の対応は鈍く、あまりに偽善的である。米国と一部欧州諸国が制裁を発動したものの、中国の経済力の前に腰は引けている。イスラム諸国ですら、中国からの投資や外交的圧力に屈し、同胞であるウイグル人を見捨てている。
国連人権理事会でも、中国は投票で多数派を形成し、報告書の採択や議論を阻止している。つまり、国際機関の場ですら「経済依存」と「政治的恐怖」によって真実が封じられているのだ。
この現実は、国際秩序の根本的な欠陥を浮き彫りにしている。
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終わりに:戦い続けること、声を上げ続けることをやめるな
新疆で行われていることは、単なる「内政問題」ではない。これは人類史上のジェノサイドであり、未来の歴史書に「21世紀の恥」と記録される犯罪である。
中国共産党の指導者たちが権力に酔っても、歴史は必ず裁く。アウシュビッツの加害者が逃げ切れなかったように、この犯罪に加担した者もまた、やがて国際法廷の前に立たされるだろう。
いま必要なのは沈黙ではない。
声を上げ、製品をボイコットし、各国政府に制裁と国際調査を求め、同胞であるウイグル人を孤立させないことだ。
ウイグルの人々は今もなお収容所の中で助けを待っている。
彼らの声を無視することは、彼らを二度殺すことに等しい。
世界に正義はあるのか――その答えは、私たち一人ひとりの行動にかかっている。