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ブリキの木こりの正体 「オズの魔法使い」を考察する

ブリキの木こりとは誰か?

思うに、ブリキの木こりだけが異質な外見をしている。ライオンやカカシは一般的に存在しているが、全身ブリキの人間? それってロボット? そんなものは世界中どこにも存在しない。あきらきに作者のオリジナルなクリーチャーだ。だとすれば、彼に隠された意図は何か? 考察してみた。

「オズの魔法使い」に登場するブリキの木こりは、その独特な外見と悲しい過去を持つキャラクターとして、多くの読者を魅了してきました。ライオンやカカシとは異なり、金属製の体を持つ彼の存在は、単なる童話の登場人物として片付けるにはあまりにも象徴的です。作者のL.フランク・ボームは、ブリキの木こりにどのような意図を込めたのでしょうか? さまざまな角度から考察してみましょう。

  1. 産業化と人間性の喪失
    ブリキの木こりは、産業革命が進む中で生まれた「機械化された人間」の象徴であるという説があります。彼は元々普通の人間でしたが、魔女の呪いによって体を少しずつブリキに変えられ、ついには完全に金属の体になってしまいました。これは、産業化によって人間の労働が機械に置き換えられ、人間性が失われていく過程を象徴していると考えられます。
    また、ブリキの木こりは心がなく、愛や悲しみといった感情を理解できません。これは、機械のように働くことを強いられる労働者が、感情を押し殺し、人間性を失っていく姿と重なります。ボームは、ブリキの木こりを通して、産業化がもたらす人間性の喪失を批判的に描いたのではないでしょうか。
  2. 社会的弱者と疎外
    ブリキの木こりは、社会から疎外された人々の象徴であるという説もあります。彼は体がブリキであるために、他の人々から異質な存在として扱われ、孤独を感じています。これは、障がい者や貧困者など、社会的に弱い立場に置かれた人々が経験する疎外感と共通するものです。
    また、ブリキの木こりは、自分の居場所を求めて旅をします。これは、社会の中で自分の役割を見つけられずに苦しむ人々が、自己実現を求めて彷徨う姿と重なります。ボームは、ブリキの木こりを通して、社会から疎外された人々の苦しみや希望を描き出したのではないでしょうか。
  3. 愛と感情の探求
    ブリキの木こりは、愛や感情を求める人間の普遍的な欲求を象徴しているという説もあります。彼は心が欲しいと願い、旅の途中で出会うドロシーたちとの交流を通して、少しずつ感情を取り戻していきます。これは、人間が愛や感情を通して成長していく過程を表していると考えられます。
    また、ブリキの木こりは、自分の弱さを受け入れ、他者と協力することで困難を乗り越えていきます。これは、人間が他者とのつながりの中で成長していくことの重要性を示唆しています。ボームは、ブリキの木こりを通して、愛や感情、そして人間関係の大切さを伝えたかったのではないでしょうか。
  4. 作者自身の投影
    ブリキの木こりは、作者であるL.フランク・ボーム自身の投影であるという説もあります。ボームは、幼少期から病弱で、社会に馴染めずに苦しんだ経験がありました。また、彼は様々な職業を転々としましたが、成功を収めることができませんでした。
    ブリキの木こりの孤独や自己肯定感の低さは、ボーム自身の経験と重なります。また、ブリキの木こりが自分の居場所を求めて旅をする姿は、ボームが自己実現を求めて彷徨った姿と重なります。ボームは、ブリキの木こりを通して、自身の苦悩や願望を表現したのではないでしょうか。
  5. 鎧の騎士との関連性
    ブリキの木こりの外見が鎧の騎士を連想させるのは偶然ではないかもしれません。中世の騎士道物語では、騎士は勇敢さや忠誠心の象徴であり、困難な状況でも諦めずに戦い抜く存在として描かれています。ブリキの木こりも、臆病なライオンや頼りないカカシとは対照的に、困難な旅路でもドロシーたちを守り、最後まで自分の役割を果たそうとします。
    また、鎧は身を守るための道具であると同時に、内面を隠すためのものでもあります。ブリキの木こりは、鎧のようなブリキの体に身を包むことで、自分の弱さや傷つきやすさを隠しているのかもしれません。
  6. まとめ
    ブリキの木こりは、産業化、社会的疎外、愛と感情の探求、そして作者自身の投影など、様々な解釈が可能な奥深いキャラクターです。彼の独特な外見と悲しい過去は、読者に多くの問いを投げかけ、考えさせます。ボームは、ブリキの木こりを通して、人間の本質や社会の問題を多角的に描きたかったのではないでしょうか。

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